エーリッヒ・フロムについて②——主な著作

エーリッヒ・フロム

本記事では、フロムが著した代表的な著作のいくつかを簡単に紹介する。今後フロムを読んでいきたいと考えている方の参考に少しでもなれば幸いである。フロムの思想の真髄は、フロイトの精神分析学をマルクス思想と絡めて、人間のより積極的な生のあり方を描いてみせたことにある。

フロムの著作はいずれも、より良い生を実現することを主眼に書かれている。自由や愛、そして自発性といった概念を、人間の実存的な観点から考察し、より本質的に捉えようと試みたものだ。その観点から、フロムの思想は時代という狭い枠組みにとらわれたものではない。いずれの著作も現代に生きる私たちに非常に有益な示唆を与えてくれる。

フロムの主な著作

自由からの逃走(1941)

第二次世界大戦の只中の1941年、フロムは初の著書となる『自由からの逃走』を出版した。この本はファシズムがドイツに出現した理由を、社会学的・心理学的アプローチから解明した理論書として高い評価を受けた。その結果、フロムは社会思想家・精神分析家として一躍注目を集めることになる。「自由からの逃走」はフロムの思想をもっともよく象徴する名著として知られている。名著と呼ばれる理由は、ファシズムに人々が向かった理由を、ナチスに求めるのではなく、人間一般の行動原理の中に求めたところにある。「なぜヒトラーのような独裁者が生まれ、ファシズム国家が生まれたのか」という問いを掘り下げていくことで、結局は国民が自分達で望んで作り上げたものだったという事実に辿り着くことになる。ここに描かれているのは、現代を生きる人々全てが抱えている普遍的な心の問題なのである。

人間における自由(1947)

1947年に出版された、もう一冊のフロムの代表作『人間における自由』も、前作同様に自由をテーマに書かれたものだ。本書は、多くの点で『自由からの逃走』の続編となっている。『自由からの逃走』において、フロムは自由を獲得することによって必然的に増大する孤独や無力感に対処する積極的な解決策として、「自発的な活動」を挙げている。本書では、さまざまな性格類型を与えた上で、「自発的な活動」の基盤となる「生産的な構え」をいかにして磨くことができるか説明する。本書で『自由からの逃走』の自由に関する理論をさらに、人道主義的な方向へと展開している。

愛するということ(1956)

『人間における自由』に引き続き、1956年に出版されたのが、『愛するということ』だ。愛をテーマにしているが、実際は『自由からの逃走』『人間における自由』の論理をさらに先へと押し進めた社会思想書・哲学書といえる。『自由からの逃走』において、自発的な行動の大切さを説いたフロムにとって、「愛」とは自発性が発揮されるべき最たるものであった。本書では、愛は誰もが安易に浸れるような感情の一種ではなく、知力と努力をもって磨かなければならない技術であるという立場をとっている。愛の理論を人間の実存的・本質的な観点から説明し、そしてその技術を修練する方法を解説している。現代社会では、フロムがいう真の愛はほとんど見受けられない。本書は、現代社会が抱える根源的な不幸の一因に、本質的な解決を提案する一冊である。私は、全世界の人間が本書を深く理解し実践しようとするならば、世界はより良いものになるだろうと確信している。まさに「愛のバイブル」なのである。

悪について(1965)

1965年に出版された『悪について』は、ある意味『愛するということ』と対をなしている。『愛するということ』の主題は人間の愛する能力でしたが、『悪について』の主題は人間の破壊能力、ナルシシズム、近親相姦的共棲といった、人間が陥りうる根源的な悪である。『自由からの逃走』で、自由の重荷に耐えかねファシズムへと傾倒していく人々の心理状況を克明に辿ったフロムは、本書でその考察をさらに深め、人間の本性と悪との原理的な関係に迫る。人を悪へと導く様々な要因を究明する中で、次第に「人間らしく生きること」の本当の意味が浮き彫りにされていく。主題は悪であるが、フロムらしく本書はあくまでもより良い生を実現するために書かれている。

生きるということ(1976)

1976年に出版された『生きるということ』では、「愛すること」と同じく「生きること」も各個人が知力と努力を持って一生をかけて磨きつづけるべき技術であることが説明される。人が生きていく上での基本的な存在様式には、「持つこと」「あること」の2つがあると述べられている。財産や知識、社会的地位や権力の「所有」にこだわるのか、それとも自分の能力を能動的に発揮し、生きる喜びを確信できる生き方を選ぶのか。資本主義が高度に発展した現代社会では、「持つこと」が自明の理とされ、「あること」が軽視されてしまう。フロムはその点に人間の不幸の根源があるとして、現代社会のありかたに警鐘を打ち鳴らす。『生きるということ』は、『愛するということ』より広い視点で、人間と社会のありかたに検討を促す著作である。

最後に

本記事では、フロムの代表的な著作を紹介した。興味が湧いた著作があれば、ぜひ一度手に取って読んでいただきたい。このサイトでも、代表的なフロムの著作は紹介していくつもりだが、やはりフロムの思想の深さを味わうには原文を読むに限る。皆さんにも、ぜひともフロムの思想の真髄を感じ取っていただきたい。

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