ダークホース “好きなことだけで生きる人が成功する時代”

自己啓発

本記事では、ハーバード教育大学院の研究者である、トッド・ローズとオギ・オーガスによって書かれた『ダークホース 好きなことだけで生きる人が成功する時代』を解説・要約します。「好きなことだけで生きる」というのは、一部の幸運に恵まれた人だけの夢物語だと考える人もいるかもしれません。しかし、本書は全ての人が個性に合わせ、好きなことを仕事にする方法を教えてくれるものです。いまの仕事に充足感をあまり感じない思っている方は、ぜひ本書を一度手に取ってみてください。ご自身の生き方を今一度見直すきっかけとなるかもしれません。

そもそも「ダークホース」とは

タイトルにある「ダークホース」というのは、元々は競馬の用語で、番狂わせを起こす穴馬のことを指します。そこから転じて現在では、予想外の成功者のことをダークホースと呼びます。本書にあるダークホースとは、まさに型破りな成功を収めた人物のことを指しています。

これだけ聞くと、この本ってやっぱり幸運に恵まれたがゆえに偶然成功できたダークホースのことを扱っているだけで、誰もが参考にできるような話ではないんじゃないかなどと思いがちです。しかし、そうではありません。本書の主張はむしろ、これからの時代はダークホース的な成功がスタンダードになってくるということにあります。まず時代の移り変わりに伴い、成功のあり方が変わってきているということについて説明しましょう。

時代の移り変わり

本書では、前提として時代が「標準化時代」から「個別化の時代」へ移り変わりつつあると述べられています。「標準化時代」とはなんでしょうか。「標準化時代」とは、19世紀から現在に至る工場生産を基盤とした産業化時代を指しています。この時代には、均一的な義務教育が導入され、人々の仕事のスタイルも一定のパターンに沿っていました。また、人々の個性は抑圧され、「出世して富と名声と地位を得ること」が一般的な「成功」とされていました。「標準化時代」に関して、エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』で述べた、自由からの逃避のメカニズムの一つ「機械的画一性」も参考にしてみてください。

しかし、著者はこの時代が終わりを迎えて「個別化の時代」が到来しつつあると主張します。最近では、テレワークなど個人のライフスタイルに合った仕事の形態の選択が可能になりつつあります。さらには、ワークライフバランスが重要視されるようになり、フリーランス人口が増加しているなど、仕事のスタイルが多様化しています。また、ITを使って医療や教育も個人に合わせて最適化する動きもあります。

このような状況下で、「個性を大切にすべき」という価値観が広がり、人々の「成功」に対する考えも変化しつつあります。単に富や名声、地位を求めるのではなく、自分に合った「幸福」を追求することが重要だと考える人が増えています。変化が激しい現代社会では、「標準化時代」が私たちに押し付けていた価値観に惑わされることなく、自分に合った成功の形を模索していくことが大切なのです。

なぜダークホースの成功を参考にすべきなのか

そこで、著者が目をつけたのは「標準化時代」にダークホースと呼ばれていた人々の成功でした。彼らは、「標準化時代」の価値観からすると型破りな成功を収めていると見られています。しかし、彼らが成功するに至った理由は、まさに彼らが個性を大切にしそれを伸ばしたことにあります。すなわち、これからの個性が重要視される「個別化の時代」には、本書に出てくるダークホース的な成功のあり方が標準的な成功となるのです。

実際、著者は数多くのダークホースから彼らの成功について話を聞きました。そこで、彼らは共通して次のように語りました。かつては「自分の人生に対する違和感」を感じていた、そして、その違和感から目を背けることなく、日々の生活に充足感を追求し続けた、と。その結果、彼らは自分が最高と思える仕事を見つけることができたのでした。言い換えれば、「標準化時代」がもたらしたシステムに違和感を感じ、個性を大切にし、自分にとって理想の成功のあり方を追求することで、ダークホース的な成功を達成することができたといえます。

ダークホースたちの成功において共通する要素を抽出することで、彼らの成功には再現性があることが明らかになりました。著者は、変化の激しいこれからの時代に自分に合った成功の形を追い求めるためには、次の4つの大切なルールがあると主張します。

  1. 自分の中の「小さなモチベーション」を知る
  2. 自分の中にある「小さなモチベーション」がより多く生かされる機会を見つけて選ぶ
  3. 自分の強みを知り、自分に合った戦略を生み出す
  4. 目的地を考えず、目の前のことに集中する

それぞれのルールについて詳しく見ていきましょう。

自分に合った成功の形を追い求めるための4つの大切なルール

自分の中の「小さなモチベーション」を知る

自分に合った成功に至るには「小さなモチベーション」(Micro Motive)が重要なキーとなります。「小さなモチベーション」とは日々の生活で見逃されがちなほど、個人的で細分化された欲求のことです。人間には驚くほど多様なモチベーションがあります。自分独自のモチベーションを理解し、それらの組み合わせが最も多く生かされる仕事を選ぶことが充足感を得るためには不可欠であるのです。そうすることで、「標準化時代」が見逃していた各個人の独自性を発揮することができるのです。

「人から感謝されるのが好き」や「競争になるとやる気が出る」といった一般的で分かりやすい「小さなモチベーション」から、もっと個人的で細分化された「物事を取り仕切ったり整理したりするのが好き」や「正しい状態にないと気が済まない」といった「小さなモチベーション」も存在します。

充足感を得るためには、自分の中の「小さなモチベーション」を知ることは不可欠であると述べました。しかし、何が本当に自分を燃え立たせるのかを正確に把握することは非常に難しいものです。そこには、いまだに社会に蔓延している「標準化時代」の価値観の影響もあります。エーリッヒ・フロムが『自由からの逃走』で述べたように、多くの場合私たちの価値観は外部から導入されたものであるのです。もっと悪いことに、私たちはそのことにほとんど気づいていません。そこで自分の中の「小さなモチベーション」を発見する方法として著者が提案したのが、「判定ゲーム」と呼ばれるものです。

小さなモチベーションを発見する「判定ゲーム」とは

「判定ゲーム」とは、「標準化時代」のフィルターを通さず、あなたが抱く微妙な好みや素朴な欲求などを発見する方法です。それには、他者や物事に対するあなたの咄嗟のジャッジ、すなわち評価を利用します。判定ゲームは次の3つのステップを取ります。

判定ゲームの3ステップ
  1. 自分が他者や物事をジャッジしている瞬間を意識する
  2. 反射的に評価しながら、どういう気持ちが湧いてきたのか見極める
  3. それに対してなぜそのような気持ちを抱いたのか自問する

具体的な例を用いて説明しましょう。例えば、数学の授業で「つまらない」と思ったとします。そこで、なぜ「つまらない」と思ったのか深く自問します。その理由は「先生の話をダラダラ聞くより本を読んでいた方がいい」からかもしれません。「長いこと黙っているのが苦痛で、ほかの人と意見を交わしたくなる」からかもしれません。あるいは「事実や方程式より物語の方が心惹かれる」からでしょうか。数学の授業で「つまらない」と思ったことに対しても、「数学が嫌い」以上の、多様な個人的な欲求が隠れていることがわかります。

この「判定ゲーム」を普段の生活に意識的に取り入れることで、自分の中の「小さなモチベーション」への理解が深まります。このようにして自分の中の「小さなモチベーション」の理解が深まったあとは、第2のルール「自分の中にある『小さなモチベーション』がより多く生かされる機会を見つけて選ぶ」ことが重要になります。

自分の中にある「小さなモチベーション」がより多く生かされる機会を見つけて選ぶ

多くの人は気づいていませんが、「標準化時代」は人々の個性を失わせ、選択の機会を奪っています。もしかすると、「標準化時代」だとはいってもちゃんと大学も自分で選んだし、就職先も自分で選んだとおっしゃる方もいるかもしれません。しかし、著者はそれはあくまで指定したに過ぎないと言います。あなたに選択の自由がありそうな場合でも、入学が許可された大学のリストから入学する大学を指定するだけだったり、内定を得た企業のリストから就職する企業を指定するだけだったりします。

「選択」と「指定」の違い

本書では「選択」と「指定」は明確に使い分けられています。「選択」は自分自身で機会を作り出す能動的なプロセスのことです。それに対して、「指定」は提示された選択肢からひとつ選ぶだけという受動的なプロセスなのです。この違いは、例えば、スーパーにある食材を自由に使って夕食になにを作るか「選択」するのと、レストランのメニューからメイン料理をひとつ「指定」することの違いと同質のものと言えるでしょう。

もし提示された選択肢の中に自分の中の「小さなモチベーション」が多く生かされるものが含まれているならば問題はありません。しかし、人間が持つモチベーションの多様さを考えると、提示された選択肢の中に自分に最適なものが含まれている可能性は低いでしょう。そのため、自分の中の「小さなモチベーション」が多く生かされる機会を能動的に探し選択していくことが大切になるのです。

ダークホースが考えるリスク

また「標準化時代」における選択の際のリスクの概念と、ダークホース的な選択の際のリスクの概念にも大きな違いがあります。「標準化時代」において、リスクとは「平均的な人間が成功する確率」で決まります。そこに個性は考慮されません。一方、ダークホースは、ひとつの機会に巡り合うと、その特色と個人的な動機がどれくらい一致するかを細かく判断します。つまり、リスクを個人と機会の多元的な相互作用によって定まるものだと考えるのです。そのため、自分の小さなモチベーションを的確に把握している限り、他の誰よりも正確に選択のリスクを判断できるようになるのです。

自分の強みを知り、自分に合った戦略を生み出す

それでは、第3のルール「自分の強みを知り、自分に合った戦略を生み出す」ということについて説明していきましょう。ダークホース的な発想においては、戦略とは「上手くなる」方法のことです。つまり、どの戦略も時の経過とともに自分が上達していくのを目指すためのものだと言えます。同じ目標に対しても、それを成し遂げるための最適な戦略は人によって異なります。そのため、自分の強みを生かすことのできる自分独自の戦略を生み出す必要があります。しかし、自分の強みとは学びを通じて構築されるものであり、たゆまぬ努力によって得られる動的な能力でもあるのです。

例えば、「あなたはカバにどれだけ上手く乗れますか」という変な質問をされたとしましょう。そもそもカバに乗ろうとも思わない人が大半かもしれませんが、実際に乗ってみないとあなたがどれだけ上手く乗れるかどうかはわかりません。このように実際に適性があるかどうかは行動してみないとわからないものです。自分の強みは考えて探すのではなく、実際に行動してみて探すべきなのです。

目的地を考えず、目の前のことに集中する

最後のルール「目的地を考えず、目の前のことに集中する」ことは「標準化時代」の考えに染まっている人にとっては、一見受け入れがたいルールに思えるかもしれません。初めに目的地を定めなかったら、そもそもなにも成し遂げることなどできないのではないか、と。「目的地」を考えないと言ったものの、もちろん「目標」は立てて行動します。ダークホース的な考え方では、この二つには明確な違いがあります。

目的地と目標の違い

目的地は、自分以外の誰かが考えた目的に個人が同意し、目指すと決めた地点のことです。その達成は常に不確かな要素に左右されます。一方、目標は常に個性から出現し、能動的な選択から生まれ、直接的、具体的に達成可能なものです。具体的な例を挙げると、「売り上げナンバーワンの営業マンになること」は目的地ですが、「来年度の営業成績を今年度の1.2倍にすること」は目標といえます。目的地を目指すことは不確かな要素を相手にしなければなりません。一方、目標を達成するため考え行動することは、自分自身と向き合うことを意味するのです。

「標準化時代」によって刷り込まれた「成功するためには、目的地を定め、そこへ向かって懸命に努力し、コースから外れるな」というメッセージは未だに根強く残っています。しかし、目的地を定め、それに向かって懸命に努力するという行動様式にはさまざまな問題点があります。

目的地を定めて行動することの問題点
  • 一つ目の問題点として、目的地に向かって努力している過程でさまざまな経験をし、精神的に成長することで、自分の中の「小さなモチベーション」への理解が変わりうることが挙げられます。自分の中の「小さなモチベーション」の組み合わせが、最も多く生かされるような目的地を定めて努力したとしても、その過程で「小さなモチベーション」の組み合わせが変化し、目的地が最適なものであり続ける保証はないのです。
  • 二つ目の問題点としては、先行きが不透明なこの時代においては、どのような機会が現れるか予測ができないということが挙げられます。ITの導入が進み、多くの職業がAIに取って代わられるだろうと言われています。同時に、新しい職業も次々と誕生しています。このような、先行きが不透明な世の中においては、目的地を定めて行動するより、今この瞬間に充足感を抱いているか自問し、目の前のことに集中することの方が大切なのです。

「標準化時代」の考えに染まった人からすれば、ダークホース的な生き方は一見ふらふらと生きているようにしか見えないかもしれません。しかし、まさにこの生き方が、今の時代に合わせた柔軟なライフスタイルであり、これからの成功者の姿なのです。

まとめ

では最後に今回の内容を簡単にまとめておきましょう。

時代は「標準化時代」から「個別化の時代」に移り変わりつつあります。「標準化時代」には型破りな成功とみなされたダークホース的な成功が、「個別化の時代」には標準的になります。ダークホース的な成功は、個性を存分に発揮することによって得られるものだからです。これからの時代に自分に合った成功を収めるためにはどうすればいいのか、本書では4つのルールにまとめられています。

自分に合った成功の形を追い求めるための4つの大切なルール
  1. 自分の中の「小さなモチベーション」を知る
    人間のモチベーションは非常に多様です。自分のモチベーションを正確に捉えることが、充足感を得るためには不可欠なのです。
  2. 自分の中にある「小さなモチベーション」がより多く活かされる機会を見つけて選ぶ
    「選択」と「指定」には違いがあります。自分の可能性を広げていくためには、能動的なプロセスである「選択」を行なっていくのが大切です。
  3. 自分の強みを知り、自分に合った戦略を生み出す
    最適な戦略は人によって異なります。そして自分の強みは考えるのではなく、行動することで理解が深まるのです。
  4. 目的地を考えず、目の前のことに集中する
    目的地を始めに定めてしまうと、さまざまな問題が生じます。変化の激しい現代では、目的地を定めて行動する生き方は時代遅れです。今この瞬間に充足感を抱いているか自問し、目の前のことに集中するのが大切なのです。

いかがだったでしょうか。本書はこれからの激動の時代を生き抜くために重要なヒントを与えてくれていると感じた人も多いのではないでしょうか。この記事では本書で私が重要だと思った部分しか紹介できていません。本記事を読んで本書に興味を持ったという方は、本書をぜひ一度読んでみてください。最後までお読みいただきありがとうございました。

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